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【観劇】ニューアナログな君へ【人間による人間のための営み】

中学の頃の同級生が主演舞台に誘ってくれたので、中野で観劇してきた。

劇団ヒラガナ(故)第53回公演
「ニューアナログな君へ」

場所は中野のウエストエンドスタジオ

今から30年後、2053年のお話。
365日24時間監視され、暴言を吐くと罰金を取られるような時代を舞台に、演劇を題材とした演劇だった。

インストールアクターと呼ばれる、脳にデータをインストールすれば正確な演技ができるという俳優が出てくる。対照的に従来の、稽古を積み台本を覚えて演じる俳優はネイティブアクターと呼ばれる。
汗水垂らし時間を費やし命を削り、友人家族を犠牲にして演劇に捧げることの是非を問う物語だった。

舞台上では演者側の葛藤が描かれたが、客席ではわたしが観客側の葛藤に直面することになった。 日々、舞台を消費する立場にあるわたしは、胸がぐしゃぐしゃに握りつぶされる思いだった。

役者は何ヶ月何百時間と稽古に費やし、脚本への理解を深め、その身に役を宿し、全体の段取りを叩き込み、集客にも奔走しなければならない。当日はステージ裏でもせわしなく動いているし、アクシデントがあれば対応が求められる。
わたしが見た本公演でもいくつかアクシデントと思われる場面があり、鮮やかなリカバリーを見た。プロレスでもよくあることだけど、正直こういう場面での役者の技量を見るのがたまらなかったりする。
閑話休題。
とにかく、演劇人がひとつの舞台に捧げる時間は膨大だ。

劇中でインストールアクターの女優が
「足にお肉がついてきた、これもインストールでなんとかならないの?(できない)」
と言っていた。
吉原くんがミューマギ2のために筋トレを頑張っていたのが記憶に新しいわたしは、
「そそそそそれができたらさあああ????」
と拳を握ってしまった。
配役発表当時、吉原くんが「細い」だの「筋トレがんばってね」だの外野から言われていたのを知っているから。彼はきっちり身体を仕上げて舞台に上がっていた。大きくなった肩も美しいふくらはぎも素晴らしかった。
だけど役作りで肉体改造をすることを当たり前にして欲しくないし、美談にして欲しくない。

心身を削る苦労を美だとは決して言いたくはない、言いたくはないし思ってもいない。
だけど苦労・葛藤を重ねてきた人間が見せるあの炎の熱さ、眩しさ、煌めきを知っている。
わたしはそれに魅せられているんだ。その炎に焦がされ、揺さぶられ、感情の動きを自覚する瞬間に自分が生きてることを実感する。
この一瞬がたまらなくて、現場に足を運んでいる。

例えば劇中のようなインストールアクター達により、演出が描いた動きに寸分違わぬ演技を稽古無しで実現できたとして。わたしはその演技に胸ぐらを掴まれ、心揺さぶられることが叶うだろうか。
公演期間中に演技に変化が現れる役者も少なくはない。予定された動きを繰り返す演劇を観るために、何度も劇場に足を運ぶ旨味はあるだろうか。

結局、「心身を犠牲にして欲しくないけど、たくさん稽古して準備して本人の感受性によって育った舞台を見せて欲しい」というところにぶち当たる。ジレンマだ。魔人ジレンマ。

やる方も葛藤、観る方も葛藤。
演劇は人間の人間らしい営みなんだろうな。